魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2025年9月19日
Column #105

サンマ豊漁に沸く産地、潮が変われば魚も変わる 脂のコク弱めでジウジウ焼くのはご法度

今年のサンマは豊漁で、サイズが大きく、脂も乗っている

時は9月半ば。関東は連日気温30度を超え、秋風らしきが吹けども夜の虫の音には力がない。異常だと騒ぐけれど、これは地球の営みであって、海の中とて然(しか)り。当然いつものサンマにも変化があった。

思い返せば、サンマと旬について書いたのが、このコラムが始まった平成29年。その後不漁となり小さく痩せたサンマの貴重なおいしさを伝えたのが令和元年。そして7年の今年、サンマの豊漁に産地は沸いており、ここ数年見かけなかった大きなサイズと脂の乗りに、水産業界および庶民はおおいに喜んでいる。

獲れなければ資源学者は獲り過ぎだと煽(あお)ったり、獲れれば海洋学者が黒潮大蛇行終息の恩恵かと示唆したりするが、サカナは摂理に従うというその一点だけであって、人間の解釈や都合など自然界にとってはどこ吹く風だ。されば今、目の前にあるサンマを味わおうではないか。有るを生かさず、無きを憂えるこそ、むしろ不届きというものだ。

ところが先日、サンマを食いつつ、「あれ?」と首を傾(かし)げた。“質”が違うのだ。太っているし脂も乗っている。しかし、その“肉”はやわらかく味が薄く、脂のコクが弱い。往年のサンマの味ではない。

思い当たることが一つあった。サンマがまだふんだんに獲れていたころ、9月に入ると腹の中にはピンク色の消化物が見えていたものだが、それが見当たらない。あれは、脂と香りと旨味(うまみ)を生み出す餌のアミ類だ。これがいないのだ。

海が変われば餌が変わる。餌が変われば魚味も変わる。結果、強めにジウジウ焼くと、脂が流れてしまい、肉はパサつく。まるで南方の魚のようだ。これに気付いた料理人の友は、焦げぬような加減で火を通した後、表面をバーナーで焼いて片目をつぶってみせた。お見事、サンマは瑞々(みずみず)しさを湛(たた)えたまま、香ばしく焼き上がったのである。

焼けたサンマを箸先で骨ごと三分割し、骨を抜いてかぶりつき、部位ごと変化の妙味を味わう。この世にサンマがある限り、この食べ方は、変わらない。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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