魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

SAKANA & JAPAN PROJECT
Facebook Twitter Instagram

ウエカツ流サカナ道一直線

2025年10月17日
Column #106

汗ダラダラの「アンコウ吊るし切り」 名だたるユーチューバーの皆さんの力を借りて魚の魅力発信

汗ダラダラのアンコウ吊るし切りは初体験

頃は10月、いくら夏が暑かろうとも、ひんやりひと風吹いて常磐の海は底曳網(そこびきあみ)の季節を迎える。はずなのに、一向に涼しくならぬ今年。変わりゆく日本全国の魚の今を紹介し、世にその存在と価値を問い続けるこの連載の軸足のひとつは、東日本大震災と原発事故からの復興にある。あれからもう15年近くもたったのかと振り返れば、いまだ十分とはいえぬ復興と、その道程の時間の長さが交錯し、ふと空を仰いでしまう。

その傍ら、気象と海と魚は加速度的に変化し、震災後急激に増えた水産資源も、漁業が十分に復活せぬままに落ち着き、地球規模の大きな海洋の動きに従っている。その激動はいまだやむ気配はない。ともあれこの時期になると、たいていどこからかやってくれと頼まれるのが、底曳網で獲(と)れる常磐のアンコウの吊るし切りである。

今の時代にとどめる足跡
“鮟鱇(あんこう)の 骨まで凍(い)てて ぶちきらる”と句に詠まれたアンコウの吊るし切りだが、環境も随分変わり、今年は汗をダラダラ流しながらの吊るし切りという初めての経験となった。そう。これは、名だたるユーチューバーの皆さんの力を借りて、日本の魚の魅力を世に伝える「ウエカツからのミッション」の昨年に続く第2弾の撮影なのだ。知名度など極めて低いウエカツが、紙面の一角で魚の旗を振ったとて、広がりはたかが知れている。時は令和。われわれ昭和から見れば未来だった今、自分には使えない、いろんな情報ツールがあふれている。自分に広がりがないのであれば、知名度と発信力の高いユーチューバーの皆さんに託せるのも、バトンを渡すようで楽しくなってきた。

自分にできることは、目の前の魚と向き合い、食い、言葉を綴(つづ)るだけだが、若者たちにはいろんな表現があり、その先を見せてくれそうな希望がある。アンコウは、べつに吊るさなくたって簡単に切れる。しかしあえて吊るして見せたのは、次世代へのせめてものはなむけであり、今の時代にとどめる足跡なのであった。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

Page Top