魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2023年9月15日
Column #081

共に食べ融和する福島復興への道程

福島県新地町で行われた地元の魚を味わう料理教室

前回、福島県の「新地町海釣り公園」に親子を招いた復興イベントで炎天下、耐える釣りをしたのち、少しばかりの小さな魚しか釣れず、福島の魚を料理して皆で食べ、福島の海と魚のクイズをやって楽しく一日を終えたという顚末をお伝えした。大変だった一日の終わりの皆の笑顔に、さらなる復興に向かうこの地の未来への希望が重なった。

単に釣りということであれば、これほどに過酷で残念な日はなかったはずなのに、地域の魚を学びながら地元で食べ、料理のコツも教わるという、その日限りではなく、それぞれの家庭の食生活や日常に生かせる中身。ここが参加者の心に刺さったのではないかと思うのである。

料理教室で用意したのは地元で獲れた3キロほどのブリの若魚、ワラサ。選んだ料理は、「りゅうきゅう」と「湯煮」であった。前者は刺し身の和(あ)え物、後者は茹(ゆ)で魚である。まず大切なのは、きれいに三枚おろしにしないことだ。おおざっぱに肉を削るようにおろすと骨の両面にたっぷり身が残るので、これを関節ごとに切っておく。

身のほうはあばら骨を切り除いて縦に血合い骨を外し、皮を下にまな板に置いて肉をひと切れずつ削っていけば刺し身となる。好みの甘さに調合したミリン醤油に刻んだショウガ、大葉、長ネギを加え、刺し身が茶色く染まるまで和えたら、汁気をザルで切り、多めのすりゴマを混ぜれば「りゅうきゅう」の完成だ。白飯にも酒にも合ううえ、ゴマのビタミンEの抗酸化作用によって3日くらいは保存できる。大分県の郷土料理で、アジでもカツオでも、どんな魚でもできるのがミソ。

一方、切り分けた中骨は、薄塩をし、酒大さじ1を加えた湯に入れて沸騰しないよう火加減しつつ茹で上げ、刻みネギとポン酢をかければよい。

調理は簡単、味は深い。魚を皆で分かち合い、共に味わうことにより生まれる心の豊かさは、他者や地域の痛みを知ろうとするゆとりを生み、そのゆく先は、自他共に歩む復興の道につながるように思えてならない。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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