魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2023年8月18日
Column #080

福島の海の復興夢を描く釣りもある

「新地町海釣り公園」で開かれた親子海釣り大会=7月29日、福島県新地町

雲ひとつない青空、太陽は燦々(さんさん)と降り注ぎ、海原に臨み糸垂れる我(われ)。と書けばまことに夏気分盛り上がることこのうえないのであるが、今年はいささか趣がちがう。紫外線が容赦なく刺さり、湿気(しけ)た熱風が体を洗う。仰ぐ青空がうらめしく見える夏の桟橋。そこにいつ釣れるとも知れぬまま糸を垂れる親子の姿。そういう釣りは吉なのか凶なのか。

ところは福島県。言わずと知れた津波と原発事故によって暮らしを奪われたこの地域は、12年の時を経て今、基盤の整備が進み、人も戻り、町の活気を再興する気概を取り戻している。よりどころは祭りや産品などさまざまであるが、その中にあって県北の新地町は、「釣り」を柱に立ち上がろうとしている。その軸となるのが、「新地町海釣り公園」なのだった。

ここの釣り場を見れば誰でも仰天するだろう。近くの火力発電所が設備を冷却したのち吐き出す大量の海水は鳴門の渦潮のごとく激流となり、その温度はもとの海水より2度前後高い。冷たく栄養豊富な親潮の流れる福島の海に、温かいこの水がぶつかったとき、そこには予想もしないような素晴らしい魚たちが集まり育つこととなる。

この釣り場は思いがけない珍品、大物が、場合によっては子供にも釣れる夢のある場所。そこでは8月31日まで「わくわくドキドキ!大物を狙え!ふくしま夏休み海釣り大会」(主催・復興庁)が開催されている。

開幕に先立つ7月29日には親子海釣り大会が開かれ、そこに参集した19家族52人。今か今かと竿(さお)を振るも、潮が悪く冒頭の過酷な状況となったのである。しかし、少しばかりの小さな魚で順位を決め、買ってきた福島のブリを料理教室でおいしく食べ、福島の海や魚のクイズを終えて帰途につく親子は晴れやかだった。地元も、親子も、それぞれの夢をこの釣り場で描き、この地の未来への希望はその笑顔が物語っていたのである。

「わくわくドキドキ!大物を狙え!ふくしま夏休み海釣り大会」の詳細はホームページから。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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