魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2019年7月19日
Column #030

夏照り返し、タコの滋養嬉し

滋味あふれるマダコ(全国漁業協同組合連合会提供)

令和元年の今年、大雨は降らぬが長い梅雨が続き、東京湾ではマダコが30年ぶりに空前の大繁殖となっている。というのも、まずマダコは真水が嫌い。大雨が降らず、餌が豊富な条件がそろったとなれば、こういうことも起こるのだ。湾奥ではピンポン玉ほどの小ダコがひしめきスクスク育ち、外湾では2~3kgの大ダコもお目見えする。

「タコてんや」と呼ぶ、大きな錘(おもり)と掛け針を備えた板にカニを縛りつけ、海底をトントコたたいていると、タコがのしかかって重くなる。そこで一気呵成(いっきかせい)に糸を手繰り上げるのがタコ釣りの醍醐味(だいごみ)だ。麦わら帽子のつばに手をやって、釣られて怒り足を広げて威嚇するタコをかかげれば、魚にはない喜びがこみ上げる夏のひとこま。

ところでタコといえば、ここ、というくらい有名なのが兵庫県の明石。この沖で育つタコは足が太く筋肉質。エビカニを食って育つ肉の香ばしさと歯切れ、貝類を食った肉の甘さと弾力を併せ持つ類(たぐい)まれなる良質を生む名産地であるが、実はここのタコは昭和38年の大寒波の時に死滅の危機に瀕(ひん)し、熊本から小ダコを移入した。それから50年余。天草のタコは代を重ねてみごとに明石型のタコとなり、暑さに疲れた夏のわれわれを癒やしてくれる。

生ダコを買い求めて、茹(ゆ)でたてを食うのは別格の旨さ。下ごしらえはたいへんだけれどやる価値はある。胴をひっくり返して内臓をむしりとり、足のつけ根中央のクチバシと目玉に包丁の先を入れて切り取る。何も加えずひたすら揉(も)むと、濃厚な泡が出てくるのでこれを捨てる。これを繰り返すこと4回。5回目に一握りの塩をまぶして軽く揉んで洗い流せば、タコ肌はキュッとなる。海水くらいの塩水を沸かしてタコを入れ、沸騰してから2分。ひっくり返して2分。たっぷりの氷を当てて芯まで冷やす。まずはそのままぶつ切りで噛(か)みしめてみよう。苦労した甲斐(かい)があったと知るだろう。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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