魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2025年12月19日
Column #108

お宝詰まった小ガニを香箱と呼ぶ日本海の粋、濃厚な味にクラクラ「食って悶えよ」

外子と内子を蓄えた香箱カニ

香箱とは、お香を納める小さな木箱だ。その中にはビャクダンやらジンコウやらといったわれわれには縁遠い高貴なお宝が収められているらしい。して、その冠を頂いた「香箱カニ」とはナニモノかと問えば、ズワイガニのメスのことなのである。オスは大きくなるが、メスは20~30センチほどと小さく、地域によってはワラワラ群れるので「勢子(セコ)ガニ」とも言うし、山陰地方では卵をもつので親ガニと呼んでいる。

海水よりすこし薄めの湯を沸かして活(い)きたカニを入れ、再沸騰してから10分。取り出し流水に当てつつタワシでこすり、甲羅を下にして冷ましておく。腹に抱えた茶色い卵は外子(そとこ)といい、フンドシを大きく開いてポキンとはずし、指先でひと房ずつ外子をつまみ口へ運べば、サクサクと比類なき食感と、旨(うま)みの詰まったやわらかい海の味が押し寄せる。

気を取り直して脚の付け根の太いところをハサミで切り、まな板の上で関節の細い方から麺棒でのすと、脚の身が飛び出てくるので取っておく。次に甲羅をはずす。左右にへばりついて見える灰色のエラをむしり捨てて、真ん中から2つに割れば、艶々とオレンジ色の固形物が、白い脂に絡んでジッと充満しているであろう。これが内子(うちこ)だ。ポクポクと香ばしい卵の塊が、咀嚼(そしゃく)するほど濃厚な味に変わりクラクラする。

もう終わりかと寂しくなった頃、はがした甲羅の内側をごらんなさい。こんなところにも内子が詰まっていると気づく驚きと喜び。ほじりながら堪能し、ようやく気になるのが胸の身だ。脚と同様に麺棒でのすと、身が押し出されてくる。取りおいた脚の身とともに酢醬油で味わい、ここで気づくのだ。内子も外子も取っておいて、混ぜて食うのだった。と悔やんでも後の祭り。残骸を鍋でつぶしてダシをとり、大根や白菜を入れて味噌汁(みそしる)が旨い。あまりにも深く多段階の味わいを秘めたこの小箱を、あなたはどのように受け止め、食うのだろうか。香箱食って、悶(もだ)えよカニ食い諸君。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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