「プライドフィッシュ」に選定されている福島県の「小名浜のカツオ」(全国漁業協同組合連合会提供)
今日も元気だカツオが旨(うま)い。わが家は朝に刺し身を食う。などと言えば、まあなんて贅沢(ぜいたく)なとくるが、世間が夜に召し上がってる分を朝に食ってるにすぎないので笑っておく。昨今の医学では、酵素を含む刺し身や生野菜は朝に食うのがよろしいと言ってるのだから、ぜひにと皆さまにもお勧め申し上げたい。
今まさに炊き上がらんとする飯の香りが部屋に漂い、野菜汁の湯気たなびき朝日射す食卓において、皿いちめんに敷かれたタマネギの上に、濃く赤くルビー色に輝き並ぶカツオの刺し身。醬油(しょうゆ)をぶっかけ、大きく厚めに切られたやつをネギと重ねてつまみあげ、炊きたての白飯でウムとほおばる悦楽と活力は、夏の一日の始まりをいやが上にも元気づける特効薬だ。事実、この魚の効能はすさまじく、各種アミノ酸や鉄分、ミネラル、タンパク質などのレベルがきわめて高く、カツオ節でエキスも吸えて、あたかも黒潮が運ぶ栄養の貯金箱のごとし。なるほど刺し身もダシも旨いわけだ。
昔の歌詠みが、青葉や山ホトトギスと並べた初ガツオの季節は推定7月。その頃は相模湾の鎌倉沖あたりで釣られたカツオが飛脚で運ばれ、初物好きの江戸っ子を喜ばせたというが、今や漁業も進化して、年の初めのお目見えは3月。鹿児島あたりで獲(と)れたのが送られてくる。春に黒潮に乗って北上する群れを「のぼりガツオ」、秋に三陸沖から帰ってくる群れを「くだりガツオ」と呼び、脂は「のぼりサッパリ、くだりコッテリ」。ともあれ最近は春を過ぎれば秋終盤までカツオが食える時代となって、カツオの恩恵を味のグラデーションで楽しめることと相成った。
通常、その身は背と腹に分かれて売られており、のぼりであれば赤色が濃く鮮やかなもの、くだりであれば脂がさして乳灰色がかったものを選べばよろしいが、実は刺し身ばかりではもったいない。売れ残って色悪く、半額になったのを見つけたならば、即刻2本も買って、塩をまぶして冷蔵庫に入れておき「塩カツオ」とする。翌朝、塩粒を洗い流して薄切りにすれば、ねっとり生ハムにも似た味わいのおかずに。白飯もよし、酢を合わせればサラダの実となり、短冊に切って野菜炒めもよし。ぶつ切りにしてカレーや味噌(みそ)汁にも入れる。カツオは海の肉なのだ。
ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。