タケノコと昆布の炊き合わせ(金沢市農産物ブランド協会提供)
新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続き、飲食業界は厳しい状況に陥っています。東日本大震災後も自粛が広がりましたが、5月の大型連休には客足が戻り始めました。今回は感染という未曽有のリスクに直面し、先行きが見えません。でも、いまこそ過去にも苦難を乗り越え、受け継がれてきた和食の原点に返り、四季を味わう素晴らしさを伝えていきたいと思います。
金沢ではいまタケノコが最盛期を迎えています。市民の台所といわれる近江町市場には3月から県外品が並びますが、北陸の厳しい冬に育つ地産品の旬は4月下旬から。「日本で最も遅い旬」のタケノコともいわれ、その分、大地の恵みが詰まっていると思います。
加賀野菜の一つに挙げられる金沢のタケノコの起源は江戸時代にさかのぼります。加賀藩の足軽、岡本右太夫が明和3(1766)年に江戸から「孟宗竹(もうそうちく)」の株を持ち帰り自宅で植栽したといわれています。
大正から昭和にかけ山間地で植栽が広がり、いまでは地産品の出荷が始まると、親類や近所からお裾分けが届くのが春の風物詩になりました。
金沢でつくられる代表的なタケノコ料理が昆布との炊き合わせです。大きめの輪切りか、半月切りにしたタケノコと昆布を鍋に入れ、酒やみりん、しょう油、砂糖で味付けしてじっくりと1時間煮込みます。昆布がとろとろに溶けだすまで煮込むと、うま味が染み込み、タケノコの香りや柔らかさが調和して優しい味わいに仕上がります。
おかずにする際は、しょうゆを効かせてしっかりと味付けするとご飯が進みます。感染防止のため、自宅にとどまる中で、家庭料理の大切さが見直されています。季節の食材を使った郷土料理などに挑戦し、暮らしに彩りを加えてみてはいかがでしょうか。
昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。