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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2019年11月22日
Column #002

家庭の味受け継ぐ「かぶら寿し」

金沢の伝統料理「かぶら寿し」

11月は金沢の伝統料理「かぶら寿(ず)し」の仕込み時期です。魚を塩と米麹(こうじ)で乳酸発酵させる熟(な)れずしの一種で、北陸名産のブリと青かぶらを使います。かつては観光客が“握りずし”をイメージして買ったら、開けてがっかりなんてこともあったといいますが、金沢で長く愛される冬の味覚です。

仕込みはまずブリの塩漬けから。骨や皮を外して「柵」の状態にしたうえで、大量の塩に埋め込みます。約4週間かけて味をしみ込ませて切り身にしたら、別に塩漬けにしておいた青かぶらに挟み、米麹に漬けて1週間ほど寝かせます。長く漬け込んだことで生まれる風味は多くのお客さんが12月上旬から献立に並ぶのを待ちわびるほどです。

もともとは各家庭で晴れの日のごちそうとして仕込んでいましたが、手間がかかるので、いまは地元の料理屋も業者から買い付けることが多くなりました。それでも自ら作り続けてきたのは、金沢特有の食文化だと思うからです。店には全国から若手料理人が修業に来ていますが、かぶら寿しの仕込みを経験せずに帰るのでは、金沢で修業した意味がありません。

金沢でもスペイン料理やイタリアンを本場の食材を使って学ぶことができる時代ですが、現地に修業に赴く若手は後を絶ちません。だから金沢でしか味わえない、知り得ない料理を伝える必要があると考えています。それには家庭料理の存在がとても重要です。実家で仕込んでいたかぶら寿しなど、幼い頃から慣れ親しんだ味が料理人としての土台になっているからです。食材に四季を感じる味覚や食器との相性を楽しむ感性は、身近な家庭料理を通じて育まれると思います。

お店でも家庭でも、料理の本質は変わりません。食べてもらう人のことを考え、食材や食器にも意識を向けることが、生活を豊かにする食文化を創るのではないでしょうか。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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