魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2024年12月20日
Column #096

ミョンテ、ミンタイ…明太子実は大変お世話になっております「スケソウダラ」

日本の食卓に欠かせないスケソウダラ

地球規模での水温上昇は無論、わが国にもおよび、寒くならんと動き出さない水族たちが時期を遅らせたり、北上したり、穏やかではない現象が近年続いている。とはいえ、今年も冬が来た。寒さが増して冬といえば鍋、といえばタラ。という連想が晩ご飯支度をするお母さんの脳裏によぎる頃、店頭に並ぶマダラの切り身のその陰で、酒場の小鍋の湯豆腐や寒風吹きすさぶ北の浜の賄い汁で煮えているのが今回のスケソウダラなのだ。

マダラより小型で細く50センチ前後。目は他のタラ類より大きく、白い皿に黒目がテンとしているのでびっくり顔に見える。北日本で多く群れ、戦後日本は大型船をもって無尽蔵にこの魚を冷凍すり身にして持ち帰り、それは“蒲鉾(かまぼこ)”となって全国の練り物業を支えた。また卵巣を塩漬けにしたものを「タラ子」とし、これまた全国の食卓の副菜として米食文化に貢献してきたのである。

ぶつ切りを、味噌汁、鍋に
そればかりではない。この魚の名は、ロシアでは「ミンターイ」、中国では「ミンタイ」、韓国では「ミョンテ」という。つまり、これら酷似した呼称からこの魚は、日本海北部から北太平洋に及ぶ隣接各国共有の財産であったことがうかがわれるのである。そして、どこかで聞いたことのあるこの響き。すなわち明太(ミンタイ)の卵巣こそ、北九州で発祥した名物「辛子明太子(からしめんたいこ)」の正体なのであった。こうして、浅い海で獲(と)れるイワシと並び、深い海で獲れるスケソウダラは、実はわれわれにとって北海の米。網に大量に入るし安い魚なので、扱いは荒く鮮度も落ちやすいとはいえ、ちゃんとおいしい魚であるゆえ、今一度その存在を見直したい。

頭と内臓を除いたら骨ごとぶつ切りにし、流水でガラガラ洗って特有の青臭さを取った後、ひとつかみの塩をまぶし、すぐに洗い水気をとる。こうしておけば、味噌(みそ)汁にも鍋にもよい。ぶつ切りを辛めの醤油(しょうゆ)でじっくりと煮しめ、シンとした空気で冷えたやつを熱い飯で噛(か)みしめる夜半、この魚の無言の恩恵に思いを巡らす年の暮れが、今年もやってくる。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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