魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2023年6月16日
Column #078

ニッポンの魚屋を考える

魚について教えてくれるニッポンの魚屋

魚屋とは何か。そりゃあ魚を売っているお店ですね。われわれが日々、食材としている魚、米、野菜、肉、これを売るのが、これらの〝屋〟であって、これを総合したのを昔は公設市場、今はスーパーマーケットと呼んでいる。業界用語では「小売り」という。

われわれ日本人の心身の健康を支える食のバランスを考えるとき、筆頭に来るのがまず魚であることは、島国であるお国柄からも実に明白。そして深い山と潤沢かつ栄養豊富な水が米と野菜を育み、狭い国土で大切に育てる畜肉がある。これを食卓に重ねれば、魚、米、野菜、ときどき肉。この食のかたちは50余年昔から世界の食研究者や医師たちが体に世界一良いと太鼓判を押す究極のバランス食であって、ニッポンの国民食といってもよかろう。私たちが暮らすこの島国の風土自体が、そのような環境にあり、その恩恵に浴してわれわれは生きている、ということになるはずなのだ。しかし、これら食材は自分で獲ったり、作ったりするわけにもいかんので、手近な〝屋〟で買うことになるのだが、まず主軸に来る魚を買うところが減っている。なんと、この20年間で1万7千軒もの魚屋が、高齢化や後継者不足、経営不振などで消えているという事実を知る人は少ない。

一方、増えつつあるスーパーでは、一部、突出して力を入れている店以外では、おおむね扱う魚は種類が少なく、加工済みが多く、パックが静かに並んでいるのみである。

〝屋〟の中で、魚屋だけはどこかおかしい。そもそも、商品である魚の説明をするにとどまらず、味を語り、食べ方を教え、客の家族構成まで立ち入ってくる〝屋〟が、ほかにどこにあるだろうか。つまり魚という食材は、種類が多く、季節、大きさ、産地によって味が違い、そもそも分かりにくい。それを売るために、客を育てているというわけなのだ。結果として、家庭の食卓が潤い、母ちゃんはまたあの魚屋で買いたいと思い、豊かな循環が生まれる。次回、さまざまな魚屋を眺めてみよう。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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