魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

SAKANA & JAPAN PROJECT
Facebook Twitter Instagram

ウエカツ流サカナ道一直線

2020年10月23日
Column #046

若きブリの子、秋の海に躍動す

富山県の「富山湾のフクラギ」(全国漁業協同組合連合会提供)

かつてこのコラムの「ブリ」の稿で「長崎県の南方あたりの東シナ海で群れをなして産卵し、生まれた子らは流れ藻とともに太平洋と日本海に分かれて北の海に北上しつつ育つのでモジャコと呼ばれる」と記している。そのモジャコが少し育って15センチくらいになると、流れ藻を離れて大海に群れ散ってゆき、20~30センチになって「ワカシ」と呼ばれるようになる。夏の日照りが続き、他の魚があまり獲れない時期に沸くので、「ヒデリゴ」とも呼んでいる。まだ筋肉は充実しておらず柔らかい白身に近く、これを潮汁や味噌汁に炊くのは、たよりなげなその身とコクをすっきり味わう初々しい夏の味覚。

そして月日は進み、秋を迎える頃になると、ワカシは次第にイワシや小アジ、小イカなど大きな餌を追う力を身につけ、終日これらを追い回して食い暮らす。結果、筋肉は何倍にも太くなり、じわじわ脂も乗せてくる。これが秋の「イナダ」。関西では「ハマチ」というし、九州では「ヤズ」、日本海では「フクラギ」と呼ぶ。いずれもやんちゃ盛りな年ごろで、秋風吹く海原で、毎日どんちゃん騒ぎをしている。獲れるときは大量に獲れて、値段も安い。50~60センチ、1~2キロのやつが、丸々1本1000円前後とは、こりゃどうじゃ。

春に始まりまだ続いているコロナ禍。その渦中において、このところ随分、この魚が一本姿で売れているという。しかも、普段は魚などあまり食わぬ学生や若奥様が、コロナで在宅を余儀なくされ、流行りの動画を見て魚捌きにチャレンジ、ということらしいのでおもしろい。アジのような小魚でなく、しっかり太い堂々たる魚をイチから捌く冒険。そして手にしたたっぷりの肉で家族友人とともに刺し身やフライや汁で味わう充実。この達成感が数百円。というわけだから諸人よ、いざ向かわん晩秋のイナダへ。若きブリの旺盛なエネルギーを、自らの手で、わが身にいただこうではないか。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

Page Top