魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年11月23日
Column #022

活け締めで活きるヒラメ甘し

茨城のヒラメ(全国漁業協同組合連合会提供)

その昔。もの心ついて自我が芽生え、親に口ごたえするようになるのが人の子。そんなとき、「親を睨(にら)むような奴(やつ)はヒラメになるぞ」と脅された経験があるのは昭和の浜育ちの方であろう。またあるいは、会社の上司の顔色をうかがいキョロキョロしてばかりの輩(やから)。これは「あいつはヒラメのような野郎だ」と言われてしまう。海底にへばりついて餌を狙うヒラメが八方に目配りする目つきになるのは仕方のないことであるが、とかく人間社会では悪いことの例えに使われる。まことにお気の毒としか言いようがない。

一方、料理におけるヒラメは、うち変わって高級魚の筆頭。タイやヒラメの舞い踊り、と竜宮城でも評判がいいらしい。冬の白身の代表格。春が産卵期ゆえ、その後の夏は体力消耗、白濁した身は「豆腐じゃあるまいし」と言われてしまう。ところが、この魚、海底にいるばかりでなく、中層に餌を求めて泳ぐし、時にはイワシの群れを追いかけ回して水面から跳躍することすらある。そうして冬に向かって、柔軟な筋肉の中にじっくりと甘味を蓄えた「寒のヒラメ」になってゆくのである。

獲(と)れたものを一晩、海水で活(い)かして落ち着かせ、疲れがとれたところで即殺し血抜きする活け締めは、上手に施せば、1枚の刺し身がガラス細工のような飴(あめ)色の透明感を帯びる。その滑らかな身肌がやんわり歯を受け止めつつ最後にキュッと応え、かみほぐすほどに甘味が溢(あふ)れ、ストーンと喉に落ちていく快感。いわゆる「喉が欲しがる旨(うま)さ」というもので、ヒラメの醍醐味(だいごみ)と言えよう。旨味(うまみ)の強い魚ゆえ、昆布(こぶ)締めも5分で十分。酒蒸しや天ぷらで締まった身をかみしめるのもいいし、細く切って塩と刻みネギとレモン汁でなますもよろしい。安く手に入ったならば、塩と酒だけですり身にしたサツマ揚げは美しい味。そして、頭とカマは、ケチらず大きく切って、煮付けで晩酌をするのがお約束ですぞ。これは誰にも渡さない独り占め。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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