魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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食育専門家・浜田峰子の魚で元気な未来!

2019年7月5日
Column #029

当たり前ではない
江戸前の穴子

7月に入り、穴子(あなご)の旬がやってきました。俳句でも穴子は夏の季語になっています。東京湾でとれた江戸前の穴子は、江戸の食文化を代表する寿司(すし)や天ぷらとして食されてきました。旬ならではの鮮度の良い穴子の白焼きや刺し身は、さっぱりとして暑い夏でも食欲をかき立てます。

握り寿司の穴子には「ツメ」と呼ばれる、穴子の骨や頭から取った出汁(だし)に調味料を加えて煮詰めたタレを塗って食べます。ツメに一手間も二手間もかける寿司職人の仕事ぶりがよく表れていて、その店の顔ともいわれています。江戸前の穴子の天ぷらは皮や骨を感じさせないほどサクサクでフワフワ。塩でさっぱりといただくと口の中に穴子本来の甘みが広がります。一番美味(おい)しく食べられる油の温度と揚げるタイミングにかけた天ぷら職人のプライドを感じます。

もともと東京湾はいくつもの川から栄養豊富な水が流れ込むため、魚介がよく育つ条件がそろっています。戦後の高度経済成長期に大規模な埋め立てによって漁場が減ったり、工業廃水が流入したりして、一時は漁獲量が激減していましたが、その後、水質改善が進み、江戸前の魚介類が美味しく食べられるようになりました。それでも漁獲量は10年前の半分です。漁には、岩の間に棲む穴子の習性を生かして直径10センチ、長さ80センチの細長い筒を使います。資源保護のため、筒の表面の水抜き穴は直径13ミリ以上にして小さい穴子を獲らないようにしています。

詳しい生態が分かってきたのは平成20年ごろ。南方の海が産卵場所の一つで、孵化(ふか)した後、半年ほどかけて黒潮に乗って2000キロ以上離れた東京湾にやってきます。3年ほどするとまた南の海に戻り産卵するそうです。資源保護の努力やその生態を知ると江戸前の穴子が決して当たり前の魚ではないことがよく分かります。江戸前の穴子の味を伝承するためにも、その背景に思いをはせながら食べてください。

神奈川県の「小柴のアナゴ」(全国漁業協同組合連合会提供)

浜田 峰子
はまだ・みねこ

食育専門家。「美味しく楽しく 笑顔は食卓から」をコンセプトに、食の専門知識を生かし水産庁の各種委員や調理師専門学校講師を務めるほか、本の執筆やTVコメンテーターとして各メディアで活動。食育セミナーや食を通じた地域活性化にも精力的に取り組んでいる。著書に「浜田峰子のらくらく料理塾」など。

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